ピュアアナログアンプのための究極の音量調節ソリューション:

by John Siau  April 11, 2018

原文

Benchmarkは、4基の256ステップ・リレー制御型アッテネーターと4基の16ステップリレー制御型ブーストアンプを備えた新しいHPA4ヘッドフォン/ラインアンプを発表しました。

これらを組み合わせ、2基の完全独立、完全バランス動作のステレオボリュームコントロールを形成しています。1基はライン出力専用で、もう1基はヘッドホン出力専用です。それぞれ0.5dBステップで、-122dB〜+ 15dBの調節範囲を持っています。絞り切ると完全なミュートになります。ボリュームコントロールには、高精度金属皮膜抵抗、金接点リレー、および完全バッファー構成の入出力を備えています。

トランスペアレントな特性

目標は、達成可能な最高の「トランスペアレント=透明度(原音に対する色付けがないこと)」を備えたアナログボリュームコントロールを作ることでした。このボリュームコントロールを、AHB2パワーアンプの前またはTHX-888ヘッドホンアンプ基板の前段に配置し、アンプ本来のパフォーマンスを全く低下させないようにしたかったのです。そのためには、ボリュームコントロールは、これらのアンプのどちらよりも歪みとノイズを低くする必要がありました。この2台のTHX-AAAアンプの並外れた性能を考えると、これは簡単な作業ではありませんでした。

要求性能

AHB2パワーアンプとTHX-888ヘッドホンアンプの仕様は似ていて、実質的にノイズレス(SN比132dB超)で歪みレス(THD -120dB未満)です。そのため、オーディオチェーン全体の弱点にならないように、新開発のアナログtoアナログのボリュームコントロールは、これらの仕様を超える必要がありました。利用可能な様々なソリューションを検討したところ、より良いものを新たに設計しなければならないことが明らかになりました。

可変抵抗=ノイズ、歪み、トラッキングエラー

最も基本的なアナログtoアナログのボリュームコントロールは、可変抵抗器を使用することですが、これらは要求性能を大幅に下回る傾向があります。抵抗素子は、オーディオ信号によって発生する瞬間的な加熱と冷却で抵抗値が変化し、歪みを発生します。この加熱は、摺動子が抵抗素子に接触し、素子が両端で終端されている場合、特に問題になります。抵抗によって消費される電力を下げることによって、この熱起因の歪みの影響を減少させることはできますが、電力を減らすと常にSN比が低下します。さらに、問題はノイズと歪みだけではありません。ステレオボリュームコントロールには、ペアマッチされた可変抵抗器が必要ですが、ペアマッチングのエラーにより、小音量時に左右のバランスに重大な問題であるギャングエラーを引き起こす傾向があります。

統合チップによるボリュームコントロール=ノイズと歪み、デジタルゲインコントロール

低価格民生用オーディオ機器に適した統合ボリュームコントロールチップは多数あります。また、それより優れたチップが多くのハイファイ製品に採用されていますが、ハイエンドオーディオ用途には適しているとは言えません。これらのチップには、電圧制御アンプ(VCA)、アナログ乗算器、または乗算型D/Aコンバーターが含まれます。これらのソリューションは、低コストでリモートコントロールを実現し、多くの場合、優れたL/Rトラッキング性能(つまりギャングエラーが小さい)を備えています。しかし、残念ながら、原音に対する透明性に欠けています。また、現在利用可能なチップはどれも、上述したノイズ、歪みの要件を満たすことができません。

デジタルDSP乗算器は、十分な出力ビットを維持することができ、十分な解像度でD/Aコンバーターに送ることができれば、ほぼ完全な透明性を実現できます。しかし、ボリュームを大きく絞る場合、D/AコンバーターのSN性能に厳しい要求が課せられます。また、アナログtoアナログ用途では、フロントエンドにA/Dコンバーターを追加しなければなりません。音量を大幅に上げると、A/DコンバーターのSN性能に厳しい要求が課せられます。そのため、実際のシステムではA/D、D/Aの2つのコンバーターがパフォーマンスの足枷になります。これが、Benchmark製D/Aコンバーターの全製品DAC1、DAC2、およびDAC3の出力にアナログアッテネーターを使用する理由です。アッテネーターによって、DACの公称出力レベルをシステム下流側の機器(通常はパワーアンプ)に一致させることができます。このようにマッチングを取ることにより、デジタルボリュームコントロールによる調節範囲を最小限に抑えることができます。

しかし、アナログtoアナログでの用途では、A/D-D/Aのカスケード処理が避けられず、過剰なTHDとノイズが発生してしまいます。

リレー制御型アッテネーター

理論的には、スイッチ制御およびリレー制御型の抵抗分割器は、ほぼ完璧な性能を実現できるはずです。しかし、いくつか入手してみたものの、すべて設計上の問題があり、性能に限界があることに驚きました。ほとんどの場合、インピーダンスが高すぎて、ノイズに対する要求性能を達成できませんでした。

そこで、抵抗を低い抵抗値のものに交換すると、別の問題が発生しました。低インピーダンスでは、回路基板のレイアウト上の制約によって引き起こされたクロストークの問題が表出しました。さらに、アシステム上流側の機器に過負荷をかけ、歪みを引き起こす傾向も見られました。

また、テストしたすべてのユニットで、音量調整時にポップノイズやクリックノイズが発生しました。リレーやスイッチを使用する場合は、別のアプローチを取る必要があることが明らかになったのです。

Benchmark独自の256ステップアクティブボリュームコントロール

超低インピーダンスの256ステップ・アッテネーターとそれを駆動する超低インピーダンス16ステップゲインステージが最終的な選択になりました。左右各チャンネルに12個のDPDT金接点リレーと64個の高精度抵抗を使用しています。全段完全バッファー・完全バランス構成になっています。バランス構成とすることで、干渉ノイズに対する耐性を高めながら、SN比が3dB向上しています。またバッファーによって、高インピーダンス入力と低インピーダンス出力を実現しています。これは、Benchmarkのゲインコントロールが、システム上流側の機器にほとんど負荷をかけず、下流側の機器に十分な駆動力を提供できることを意味します。バッファリングすることで、非常に低い抵抗値を使用することもでき、これにより、アッテネーターで発生する熱雑音を減少しています。

高精度MBB(メイクビフォア・ブレーク)接点リレー

リレー制御のアッテネーターで発生する通常のポップノイズやクリックノイズを除去することに成功しました。これを行うために、マイクロプロセッサの代わりにFPGAでリレーを駆動することを選択しました。このFPGAにより、すべてのリレーの開閉タイミングを非常に正確にコントロールすることが可能になります。リレーの切り替え中の過渡的なゲインのオーバーシュートを防ぐために、非常に高速で動作するMBB接点リレーを使用しています。正確なタイミングコントロールのBenchmark独自のアッテネーター+ゲインステージのボリュームコントロールシステムは、出力信号にポップノイズ、クリックノイズ、ジッパーノイズを発生させることなく、迅速な音量調節が可能です。

抵抗器の選択

前述したように、抵抗器は、オーディオ信号による瞬間的な加熱によって抵抗値が変化すると、歪みを引き起こす可能性があります。この潜在的な問題を排除するために、優れた温度係数で厳選した高精度薄膜抵抗器を使用しています。また、抵抗器は、電力損失に対処するために本来必要とされるよりも物理的に大きいものを使用しています。これは、パッケージサイズが大きいほど、熱による影響が少なくなるからです。

完全パッシブ構成という神話

ほとんどの人は、アクティブ回路であるバッファーでノイズや歪みが発生することを知っています。しかし、多くの人々は、これらのアクティブ素子がオーディオ回路のノイズと歪みの唯一の原因であるという誤った思い込みをしています。しかし、「パッシブ部品は大抵の場合、オーディオ回路のノイズと歪みの主な原因となっている」が真実なのです!

完璧を求めるあまり、多くのオーディオマニアは「完全パッシブ構成が最高」という神話を信じています。実際、ほとんどのリレー型アッテネーターが完全パッシブ構成である理由は、この神話を多くのマニアが信じているからではないかと疑っています。表面的には、「完全パッシブ」は良い考えのように聞こえますから。

低ノイズを実現するには低インピーダンスが必要

1本の抵抗器だけで優れたアクティブ・バッファーよりもはるかに多くのノイズを生成する可能性があるということを、多くのオーディオマニアは判っていません。たとえば、LME49860オペアンプは、440Ωの抵抗とほぼ同じ大きさのノイズを発生しますが、これは、LME49860が1本の10kΩ抵抗によって発生する熱雑音よりも13.6dBも小さなノイズに過ぎないことを意味します。バッファーを使用することにより、アッテネーターの抵抗ラダーネットワークで、はるかに低いインピーダンスを使用することができます。インピーダンスが下がれば、アクティブ構成は完全パッシブ構成よりもはるかに低ノイズになります。低ノイズ性能は、使用する抵抗器のインピーダンスが非常に低く、信号レベルが高く保たれている場合にのみ実現できることにご注意ください。

パッシブ構成では、ノイズと歪みのトレードオフが不可避

完全パッシブ構成アッテネーターの設計では、インピーダンスを下げることでノイズを減らすことができますが、歪みは逆に大きくなります。この歪みは、システム上流側の機器の過負荷によって引き起こされます。また、オーディオ出力が過負荷になると、歪みが増加します。一般的に信じられている神話とは異なり、高品質のアクティブ・バッファーを追加することで歪みを減らすことができるのです。

パッシブ構成によって発生する周波数特性上の問題

パッシブアッテネーターの第3の問題は、システム下流側の機器(一般的にはパワーアンプ)に十分な駆動力を提供できない可能性があることです。ケーブルのキャパシタンスと入力キャパシタンスは、高域特性でロールオフを引き起こす可能性があります。さらに悪いことに、パッシブアッテネーターで音量を調整すると、周波数特性はさらに変化する可能性があります。広い帯域幅を維持するには、低出力インピーダンスが重要です。出力バッファーは、本来意図した周波数特性を実現するために不可欠なのです。

パッシブアッテネーターのノイズ解析と歪み解析

実験に使用した完全パッシブ構成アッテネーターでは、高インピーダンスの抵抗器で発生した熱雑音が、適切に設計された完全バッファー構成アッテネーターで達成できた値より大きくなりました。さらに、パッシブアッテネーターによって生じる負荷は、システム上流側の機器で歪みを引き起こす傾向がありました。これらから、当社が目指す設計ではバッファーが必要になることは明らかでした。

バッファーの選択

LME49860オペアンプを選択した理由は、卓越したTHD特性、相互変調歪特性、広電圧振幅、高負荷時の駆動力の高さにあります。16ステップ・ゲインブースト・ラダーは、入力バッファーのフィードバックループ内にあります。2番目のバッファーは256ステップのアッテネーター入力を駆動し、3番目のバッファーは出力の駆動を行います。各バッファー部は実際にはバランス構成されたペアのバッファーで構成され、シグナルパス全体が完全バランス構成になっています。2番目のバッファーは、高精度の完全バランス差動アンプとしても機能します。この差動アンプは、バランス電圧信号をアッテネーターステージに送るとともに、256ステップ・アッテネーターの電圧ヘッドルームを最大限に活用し、コモンモードノイズを除去します。

256ステップと1ステップ0.5dBによる調節

64ステップを超えるステップ式アッテネーターは非常に珍しいものです。なぜなら、ステップ数が増えると、抵抗値の精度を劇的に上げる必要があるからです。一貫した0.5dBステップで256ステップのアッテネーターを実現するために、超高精度0.1%誤差の抵抗器を使用する必要がありました。もし一般的な1%誤差の抵抗器を使用したら、ステップサイズに一貫性がなくなり、音量を調整した際に左右バランスの変動が発生してしまいます。

ほぼ完璧なステレオトラッキング(ギャングエラー)特性

0.1%誤差の抵抗器を使用することで、Benchmark独自のボリュームコントロールのカバーする128dB全体にわたって正確な左右バランスを維持しています。ゲインステージとアッテネーターステージはデュアルモノ構成となっていて、左右のチャンネルはそれぞれ独立して調整されます。この機能を活用することで、ゲイン範囲全域で左右バランスを監視・維持することができます。