by John Siau  May 03, 2016

原文

電源にまつわるオーディオ界の「迷信」

「スイッチング電源はノイズまみれ」

「リニア電源がオーディオ用途には最適」

Benchmarkはこれに異を唱えます。

5年ほど前に、Benchmarkは新製品へのリニア電源の搭載を止め、スイッチング電源に切替えました。理由は、リニア電源があまりにもノイズまみれだからです。

そうです、読み違えではありません。リニア電源はノイズまみれなのです!適切に設計されたスイッチング電源は、リニア電源よりもはるかにノイズが小さいのです。

リニア電源はハムノイズを引き起こす

ノイズの問題は、リニア電源には、ACライン周波数(50Hz〜60Hz)で動作する大きなトランスやその他の磁性部品があるためです。このライン周波数は可聴帯域にあること、オーディオ製品がハムノイズやバズノイズを発生する場合があることは誰しも熟知しています。しかし、こうしたノイズが電源回路によって引き起こされていることは周知の事実ではあるものの、それを取り除くのがなぜ難しいのかを理解している人はほとんどいません。

ハムノイズは通常、磁気干渉によって引き起こされる

トランスは磁性部品です。電力は、トランスの入力巻線と出力巻線の間で磁気的に伝送されます。つまり、電力は、リニア電源では電源周波数磁界を使用して、トランスのACライン側から低電圧の二次側に伝送されます。残念ながら、いかなるトランスも決して完璧ではなく、一部のエネルギーは常に漂遊磁界として外部に漏れます。これらの漂遊磁界は、オーディオ製品のほぼすべての導体に対し干渉を起こす可能性があります。磁気シールドは高価であり、敏感な回路が強磁場のすぐ近くにある場合、その効果は限定的です。

パワーアンプは最悪の『犯人』

オーディオパワーアンプなどの高出力機器の電源回路は、非常に強い磁界を放出する可能性があります。この強い磁界は、パワーアンプ自身のノイズ性能(SN比)の足を引っ張る傾向があります。さらに、この漏洩磁界は、アンプのごく近くに設置したオーディオ製品に干渉を引き起こす可能性もあります。

アンプに接続されたケーブルやアンプのそばを通っているケーブルも、不要なハムノイズやバズノイズを拾う可能性があります。このため、通常、パワーアンプをケーブルや他の機器から十分に離しておくことが非常に重要です。

全ての常識を覆す!

ベンチマークの新製品パワーアンプAHB2はこうした常識を覆します。敏感なオーディオ機器に隣接して配置しても干渉を引き起こすことがありません。AHB2は高出力機器ですが、磁気干渉はほとんど発生しません。一体、何が違うのでしょうか。

AHB2内部の秘密はスイッチング電源です。この電源回路には複数の高出力トランスが使用されていますが、それらは非常に小さく、それに応じて漂遊磁界も弱くなっています。これは、磁性部品が200kHz〜500kHzで動作するためです。

サイズが重要

トランスが物理的に小さい場合、磁気シールドの選択肢が増えます。たとえば、AHB2で使用されている小型のトランスは、漂遊磁界を封じ込めるのに役立つフェライト材料で完全に覆われています。この手法は非常に効果的で、AHB2のSN比は130〜135dBに達しています。AHB2以上にノイズの小さいパワーアンプはありません。さらに驚くべきことに、スイッチング電源基板はパワーアンプ基板の上わずか25ミリ未満の位置に配置されているのです。AHB2は、スイッチング電源が発生するノイズは非常に小さいことを証明しています!AHB2がリニア電源を使用していたら、電源回路を数フィート離れた完全に別の筐体に収容しない限り、このような高性能を達成できなかったでしょう。

帯域外ノイズ

スイッチング電源の主な利点の1つに、動作周波数が人間の可聴範囲を超えていることが挙げられます。干渉が発生しても、可聴帯域に対する干渉は発生しません。したがって、スイッチング電源による干渉は、オーディオ信号に悪影響を与えることなく、フィルターを使用して除去することもできます。ただ、AHB2の電源は非常に低ノイズなので、オーディオ出力をフィルタリングする必要すらありません。AHB2は、500kHzの測定限界まで、深刻なスイッチングノイズの痕跡もなく200kHzという広帯域を実現しています。

アナログ増幅+スイッチング電源

AHB2はD級デジタルアンプではないことに注意してください。AHB2はAB級アナログアンプです。スイッチング動作は電源部だけです。このスイッチング電源は、アナログアンプ部に安定した一定のDC電圧を供給するものです。

効率

スイッチング電源のもう1つの大きな利点は、非常に高効率であるということです。AHB2の電源は90%以上の効率を達成しています。これは、熱として失われる電力がほとんどないことを意味します。

レギュレーターの利点

従来型のパワーアンプの大半で、非安定化リニア電源が使用されています。電力を節約し、熱を減らすために、レギュレーターが省略されています。こうした設計手法の欠点は、電源レールが音楽のピークの度に電圧降下を起こすことです。従来型の設計では、この電圧降下を管理可能なレベルに抑制するために、大規模なコンデンサー・バンクが電圧レールに接続されています。それでも、従来型アンプでは大きな負荷がかかると歪み(THD)が大幅に増加するのが一般的です。

対照的に、AHB2には厳密に安定化処理を行う電源回路を使用していますが、これは増幅中に電圧降下を起こさずに一定のDC電圧となるようにAHB2のアンプ基板が常にモニタリングしていることを意味します。音楽再生が必要とする動的な要件にAHB2の電源回路は十分に対応できるので、AHB2は大規模なコンデンサー・バンクを必要ともしないし、装備していません。そして、これは重い負荷を駆動するときに歪みが上昇するのを防ぐのに役割も果たしています。AHB2の8Ω負荷時、4Ω負荷時、および2Ω負荷時のTHDの数値がほぼ同じである理由の1つはここにあります。

スイッチング電源をオーディオ用途に最適化

この命題を結論づける前に、多くのスイッチング電源がノイズを含んでいることを指摘しておかなくてはなりません。古い設計手法や低コスト重視の設計手法では、スイッチングの動作周波数に可聴帯域内の低い周波数を使用する傾向にあります。多くの携帯電話やコンピューターの充電器はこのカテゴリーに分類されます。こうしたデバイスをオーディオ機器やケーブルのすぐ近くに配置すると干渉を引き起こす可能性があります。

Benchmark製品で使用されているスイッチング電源は、オーディオ用途に特別に最適化されています。このスイッチング電源は、同サイズの従来型リニア電源よりもはるかに低ノイズです。

パワーアンプAHB2のスイッチング電源

AHB2は、スイッチング電源を備えたアナログ増幅パワーアンプです。当社の知る限りでは、オーディオパワーアンプの中で最高のSN比を誇るものです。SN比(A weighted)は、ステレオモードで132dB、モノモードで135dBとなっています。これは、最高クラスのパワーアンプ群と比較しても15〜30dB優れた値です。

このように優れたノイズ性能は、リニア電源では不可能でした。リニア電源は、電源由来の低レベルのハムノイズやバズノイズを誘発する強力な電源周波数磁界を発生します。この磁気誘導された電源由来の干渉は、大半のパワーアンプでノイズ性能の足枷となります。磁気干渉は、伝導ではなく放射であるため、フィルターコンデンサーでは除去できないものであることに注目してください。つまり、リニア電源にフィルターを追加しても、パワーアンプからハムノイズやバズノイズが除去されることはないのです。

AHB2では、磁性部品(トランスとコイル)はフェライトコアで完全に覆われています。上の写真で濃灰色の円筒形部品(線材が見えている)がそれらの磁性部品です。これらの高出力磁性部品は、スイッチングの動作周波数が高く、非常に小型になっています。磁界の強さはそれに応じて小さく、可聴帯域をはるかに超えています。フェライトトコアの中に磁性部品を納めることができているのも、部品の大きさが小さいためです。これらのフェライトコアで覆いコイルを完全にカプセル化することで、漂遊磁界を大幅に低減しています。

AHB2は共振スイッチング方式を使用することで、スイッチングノイズは大幅に低減されています。スイッチングトランジスタは、外側のヒートシンクに熱を伝達するアルミニウム製バーに取り付けられています。

スイッチング電源部は、AHB2筐体内の一番上に配置された基板です。(写真上参照) スイッチング電源は、アナログアンプ基板のわずか25mm上に取り付けられています。2枚の基板の間に磁気シールド板が見えます。このシールド板は、スイッチング電源で発生する低レベルの高周波磁界を遮蔽するのには非常に効果的ですが、電源がAC電源周波数で動作している場合、あまり価値がありません。

パワーアンプでスイッチング電源を使用するもう1つの利点は、電圧レギュレーターによってアンプの消費電力が増加しないことです。AHB2には、パワーアンプにしては珍しく、レギュレーターを装備した安定化電源を使用しています。レギュレーターは、THDの低減に役立ちます。当社の知る限り、AHB2よりもTHDが低いパワーアンプは存在しません。繰り返しますが、これは主にスイッチング電源の使用によるものです。

上の写真で電源基板の前面に配置された複数のコンデンサーで、電源出力の静電容量の大部分を占めています。これは、非安定化電源で必要とされる容量よりもはるかに小さい容量です。AHB2のスイッチング電源には、可聴周波数で応答するレギュレーターループがあります。これにより、レギュレーターは音楽のピークにリアルタイムで応答できます。ピーク電流は、コンデンサー・バンクに蓄積されたエネルギーからではなく、AC電源から必要に応じて随時引き出されます。

AHB2の磁界エミッションの測定

以下の2枚の写真は、AHB2の磁界エミッションをどのように測定したかを示しています。この測定により、磁界の放射量は非常に少ないことが確認されました。オーディオ機器は、オーディオラックでAHB2の真上や真下に他のオーディオ機器を配置しても磁気干渉のリスクはありません。

動画によるデモ 「百聞は一見にしかず」

2か月前、スターカッド型マイクケーブルの磁気耐性を示す動画を公開しました。ノイズの多い低コストのスイッチング電源など、さまざまな電源から発生する漂遊磁界にケーブルを暴露したものです。また、DAC1とDAC2で発生した漂遊磁界にケーブルを暴露しました。DAC1では磁気干渉が発生しましたが、DAC2では発生しませんでした。その違いは何か。DAC2にはオーディオ用途に最適化されたスイッチング電源が使用されており、DAC1には従来型のリニア電源が使用されています。この動画により、DAC2のスイッチング電源がDAC1のリニア電源よりもはるかに低ノイズであることが判ります。比較にならないほどです!百聞は一見にしかず、どうぞご覧ください。

この動画のショートバージョンをご覧いただき、『オーディオの迷信』に終止符を打つのにお力添えください!

注記:このアプリケーションノートは、2017年6月16日に編集され、AHB2パワーアンプのスイッチング電源の写真と説明が追加されたものです。