by John Siau  June 04, 2020

原文 

迷信その1「ダンピングファクターは重要ではない」

迷信その2「ダンピングファクターは10あれば十分」

迷信その3:「全てのアンプは十分なダンピングファクターを持っている」

こんな迷信はどこから来たのか?

こうした迷信は、Dick Pierceの有名な論文にまでさかのぼるようです。彼の分析では、ラウドスピーカーのコーンの動きの減衰に関して、ダンピングファクター10とダンピングファクター10,000にはほとんど差が無い、としています。また、Audiofrog.comに投稿されたAndy Wehmeyerの優れた論文など、最近でも多くの論文でPierceの分析について研究が繰り返されています。

これらの論文は、「アンプのダンピングファクターは重要ではない」という証拠として引用されることがしばしばあります。数学的分析としては正しいですが、その結論は不完全で誤解を招くものです!この論文は、そもそもダンピングファクターに関する迷信を打ち破るために書かれたものだったのですが、皮肉なことに、別の迷信を生み出してしまったのです。

アンプのダンピングファクターはスピーカーユニットのダンピングには影響しないが、問題を起こす!

これらの論文では、「アンプのダンピングファクターが10以上あっても、スピーカーユニットの動きの減衰性能を大幅に改善することはできない」、「ほとんど全てのアンプはダンピングファクターが10以上である」ことが指摘されています。

表面的には、両方の論文が「ダンピングファクターのスペックは重要ではない」ことを示唆しているように見えますが、あなたがその結論に飛びついた一人なら、その迷信を永続させている一人であることを認識すべきです。

論文をもう一度よく読んでみよう

この2つの論文をもう一度読み直すと、読者のほとんどが気付いていない曖昧なコメントがいくつかあることに気付くはずです。

Dick Pierce の論文:

「ソース抵抗がゼロでない場合、音質に違いがあるかもしれないが、この論文での解析、測定モード、リスニングテストでは、音質差がダンピングファクターの変化によるものではないことを決定的に示している…」

同様に、Andy Wehmeyerの論文では:

「低出力インピーダンスには利点がある。別の技術情報として記憶に留めておくことにしよう。」

言い換えれば、2つの論文は共に、高いダンピングファクターを持つことによる音質上の利点があるかもしれないことを認めているのです!ただ、残念なことに、彼らはその利点を特定できていないのです。

この2つの論文はまた、「ダンピングファクター」が用語の選択として不適切であることを指摘できていません。それはどういうことかと言うと、パワーアンプの出力インピーダンスの逆の定義方法が「ダンピングファクター」なのです。

このアプリケーションノートでは、この2つの論文が言及しなかったところを掘り下げ、彼らが意図せず作ってしまった迷信を打ち破ろうと思います。いくつかの簡単な計算で、低出力インピーダンス(すなわち高ダンピングファクター)の利点を定量化していきます。

周波数特性上の問題

パワーアンプの周波数特性は、理想的な負荷抵抗を使用して測定されるのが通常です。ところが、スペック上でフラットな周波数特性を持つアンプでも、スピーカーのインピーダンスで負荷が掛かると、まったく異なる周波数特性を持つ場合があります。

スピーカーには、周波数で変化する抵抗特性、誘導特性、容量特性がありますが、アンプのダンピングファクターが低過ぎると、これらの変動によって、聴き取ることのできる悪影響をシステム全体の周波数特性に及ぼします。

スピーカーのインピーダンス特性と位相特性

図 1

このグラフは、当社のリスニングルームにある3ウェイスピーカー(Focal Chorus 826V)のインピーダンス特性と位相特性を示したものです。(このスピーカーは「駆動が難しい」8Ωスピーカーの例として手元に置いてあります。)

実線は測定されたインピーダンス(単位Ω、左側の縦軸)、点線は位相角(単位°、右軸の縦軸)です。横軸は周波数で、範囲は10Hz〜50kHzとなっています。

119Hzでのインピーダンスはわずか2.6Ωであることに注意してください。また、94Hzでの位相角は – 53度であり、このスピーカーが高い容量性負荷を持っていることを示しています。計算は割愛しますが、この2つのパラメーターは、100Hzでは2.2Ωの負荷抵抗に必要とされるのと同じ電流をアンプが供給する必要があることを示唆しています。

また、周波数に応じてインピーダンスが急激に変化していることにも注目してください。30Hz付近でのインピーダンスは19Ωですが、このスピーカーの再生帯域の実質的な下限である45Hz付近ではわずか6Ωです。一方、65Hzでのインピーダンスは約13Ωです。このように、スピーカーの再生帯域下限付近での急激なインピーダンス変化は、ごく一般的なものです。

この3ウェイ・スピーカーのクロスオーバー周波数は300Hzと3kHzとなっています。300Hzのクロスオーバーではインピーダンス特性に隆起が生じることに注意してください。また、3kHzのクロスオーバー周波数の前後で、インピーダンスが18Ωから8Ωに変動することに注意してください。これらの事実は全て、スピーカーが単純な負荷抵抗とは異なることを示しています。スピーカーのインピーダンスは、オーディオ帯域全体では、大幅に、かつ、多くの場合急激に変動するものです。このようなインピーダンス変動は、アンプの出力インピーダンスが非常に高い場合、アンプの出力の周波数特性に大きな変化を引き起こす可能性があります。

ダンピングファクターとはインピーダンス比のこと

定義上、「ダンピングファクター」とは、スピーカーの公称入力インピーダンスとアンプの出力インピーダンスの比です。

ダンピングファクター = スピーカーの入力インピーダンス / アンプの出力インピーダンス

ほとんどのアンプの性能仕様のダンピングファクターの数値はスピーカーインピーダンスを8Ωとして計算したものです。つまり、以下の式でアンプの出力インピーダンスを決定することができます。

ダンピングファクター = 8/アンプの出力インピーダンス

すなわち

アンプの出力インピーダンス = 8/ダンピングファクター

つまり、アンプの出力インピーダンスが低ければ低いほど、ダンピングファクターは高くなることが判ります。

このインピーダンス比(=ダンピングファクター)がシステムの周波数特性を決定している

アンプの出力インピーダンスは、スピーカーによる負荷インピーダンスと共に分圧回路を形成します。アンプの出力インピーダンスが非常に低い(ダンピングファクターが高い)場合、スピーカーインピーダンスを構成している抵抗性負荷、誘導性負荷、容量性負荷は、アンプの出力での振幅や位相特性にほとんど影響を与えません。

それと対照的に、アンプの出力インピーダンスがスピーカーのインピーダンスに近づくと(つまりダンピングファクター=1)、スピーカーのインピーダンスの抵抗性負荷、誘導性負荷、容量性負荷のそれぞれが、アンプの出力での振幅と位相特性に大きな影響を与えます。

ダンピングファクターか、出力インピーダンスか

「ダンピングファクター」と「出力インピーダンス」のスペック値は、アンプの同じ特性を逆のやり方で表現しているものであることをもう一度理解しましょう。つまり、「ダンピングファクターが高い=出力インピーダンスが小さい」ということです。

公称8Ωのスピーカーでは、アンプの出力インピーダンスが0.8Ωのときにダンピングファクターは10になります。同様に、アンプの出力インピーダンスが0.08Ωの場合、ダンピングファクターは100、アンプの出力インピーダンスが0.008Ωの場合、ダンピングファクターは1000になります。つまり、アンプの出力インピーダンスが低ければ低いほどダンピングファクターは高くなるのですが、ここは興奮せず先に進みましょう。

スピーカーケーブルの存在がダンピングファクターの現実的な限界を作る

一般的な12AWGスピーカーケーブルは、10フィートで総抵抗値0.0318Ωとなります。これを出力インピーダンス0Ωのアンプで駆動した場合(そのようなアンプが存在するなら、という話ですが)、ダンピングファクターは200になります。Benchmarkは、総抵抗値0.0252Ωの11AWGケーブル(12AWGより太い)を使用することを提唱します。これを0Ωアンプで駆動すれば、ダンピングファクターは317になるからです。

言い換えると、スピーカーの入力端子上で200〜300を超えるダンピングファクターとなることはめったにありません。1000近いダンピングファクターが重要だとすると、アンプをスピーカーユニットの非常に近くに配置する(極端にスピーカーケーブルを短くする)か、非常に大きな断面積の導体を使用するかのどちらか、または両方を行う必要があります。でも、導体面積の大きな溶接用ケーブルを直ぐに購入しに行かないでください。大きな断面積の導体にはインダクタンスによる別の問題があるからです。溶接用ケーブルをスピーカーケーブルとして使用するは必要ありません。なぜなら、このアプリケーションノートでは、1000の減衰係数は必要ないことを示そうとしているからです。

ダンピングファクター10は低過ぎで、1000は不必要に大きいのか?

スピーカーのカタログスペックの周波数特性は、使用するアンプのダンピングファクターが十分高い場合にのみ、アンプを入れ替えても同じ特性を再現することができます。ところが、低ダンピングファクターのアンプにスピーカーを接続すると、スピーカーの負荷によってアンプの出力端子上に現れる周波数特性とスピーカーの音として出力される周波数特性は変化してしまいます。この周波数特性の変化は、スピーカーの再生帯域の下限と各クロスオーバー周波数では特に問題になります。

簡単な回路図で表現すると

図 2

アンプの出力インピーダンスとスピーカーの入力インピーダンスは図2のような分圧回路を形成します。Z1はアンプのインピーダンス、Z2はスピーカーのインピーダンスです。入力電圧は、Z1とZ2の間で分割されます。Vinは、アンプが負荷ゼロで生成する電圧です。Voutは、スピーカー(Z2)が接続されているときのパワーアンプ背面のスピーカー端子に掛かる電圧です。

または

と表すことができます。

図2の2番目の式は、いわゆる「伝達関数」です。入力信号のどれだけの割合が出力に到達するかを示すものです。

アンプの出力インピーダンスZ1は、通常、抵抗性です。つまり、アンプの出力インピーダンスが周波数によって変化しないことを意味し、アンプの出力インピーダンスを「出力抵抗」と呼ぶことができることも意味します。

それとは対照的に、スピーカーの入力インピーダンスZ2には、著しい誘導成分および容量成分が含まれています。これは、スピーカーのインピーダンスが周波数によって変化することを意味します。図1の実線カーブからもその事実がはっきりとわかります。

計算を単純にするため、ここではスピーカーの持つ誘導性および容量性によって発生する位相シフトは無視します。つまり、図1の点線カーブで示されている位相角は無視します。この簡略化した分析によって、アンプ・スピーカー間のインターフェースの振幅特性を導くことができます。

簡略化した分圧回路は以下のようになります:

図 3

伝達関数:

ここで、R1はアンプの出力インピーダンス、R2は、特定の周波数でのスピーカー入力インピーダンスです。ここでは、R2は図1に示すインピーダンス曲線から直接読み取ることができます。

例1:ダンピングファクターが10の場合

ダンピングファクターが10のとき、アンプの出力インピーダンスは以下となります。

R1 = 8/10 = 0.8Ω

図1から、このスピーカーの最小インピーダンスは119Hzの時で2.6Ωであることが判ります。

R2 = 2.6Ω

したがって、図3の伝達関数を使用すると:

  • スピーカーのインピーダンスが最小の2.6Ω時の信号減衰率:

2.6/(2.6+0.8) = 0.714

  • dB値に変換:

20*Log(0.714)= – 2.3dB

これは、アンプの出力電圧がスピーカーのインピーダンス負荷により、119Hzで2.3dB減衰することを意味しています。

一方、3kHz付近でスピーカーの入力インピーダンスは最も上昇し、18Ωとなっていますので、

  • スピーカーのインピーダンスが最大の18Ω時の信号減衰率:

18/(18+0.8) = 0.957

dB値に変換:

20*Log(0.957)= – 0.3dB

つまり、ダンピングファクターが10の場合、119Hzでは2.3dB減衰するのに対し、3kHzではわずか0.3dBしか減衰しません。その差は2.3dB-0.3 dB = 2dBもあるのです。

これは、このスピーカーをダンピングファクター10のアンプで駆動した場合、周波数特性曲線の全体的な形状を2dB変化させることを意味します。特に119Hz付近の低音成分が2.3dB減衰してしまうことは深刻で、特定の状況下では容易に聴き取れる欠陥となります。

迷信1破れたり!ダンピングファクター10は低過ぎ!

例1では、ダンピングファクターが10では、アンプとスピーカーのトータルの周波数特性に聴き取ることのできる悪影響を及ぼす可能性があることを示しています。そうです、ダンピングファクター10は低過ぎるのです!では次に、ダンピングファクターが高いとどうなるか検証してみましょう。

例2:ダンピングファクターが100の場合

ダンピングファクターが100の場合、アンプの出力インピーダンスR1は以下となります:

R1 = 8/100 = 0.08Ω

例1と同様に、119Hzでスピーカーのインピーダンスは最小値になり、

R2 = 2.6Ω

したがって、

  • 119Hzでの伝達関数:       

2.6/(2.6+0.08) = 0.970

  • 減衰率をdB値に変換:

20*Log(0.970)= -0.26dB       

同じく、3kHzでスピーカーのインピータンスは最大値になり

R2 = 18Ω

したがって、

  • 3kHzでの伝達関数:

18/(18+0.08) = 0.996

  • 減衰率をdB値に変換:

20*Log(0.996)= -0.04dB

つまり、2つの周波数での出力レベル差は 0.26dB – 0.04dB= 0.22dBという値になります。

例2では、ダンピングファクター100の場合、周波数特性の変動は約0.2dBに抑えられます。静的な状況では、聴覚はスピーカー特性に現れるこの0.2dBの変化にすばやく適応することができるので、リスナーが音質の変化として検知する可能性はほとんどありません。そのため、周波数上に現れる0.2dBのレベル変動は十分許容範囲であると言えます。

それでも、この0.2dBの変動は、異なるダンピングファクターを持つ2台のアンプ(ダンピングファクターが100のアンプと、それよりはるかに高いダンピングファクターのアンプ)のA/B比較やA/B/X比較で検知される可能性があります。3kHzでの振幅を一致させ、例のスピーカーを使用した場合、片方のアンプでは119Hz約0.2dB大きくなる可能性があります。

A/B比較やA/B/X比較テストにおける一般的な経験則として、レベル差を0.1dB以下にする必要があると言われています。そうでない場合、多くのリスナーがレベル差を検知することができると言われています。言い換えると、ダンピングファクター100は、通常のリスニングでは気付かれなくても、きちんとコントロールされたテスト下では、音質に対する悪影響が検知される可能性があります。

例3:ダンピングファクターが200の場合

ダンピングファクターが200の場合、アンプの出力インピーダンスR1は以下となります:

R1 = 8/200 = 0.04Ω

例1と同様に、119Hzでスピーカーのインピーダンスは最小値になり、

R2 = 2.6Ω

したがって、

  • 119Hzでの伝達関数:

2.6/(2.6+0.04) = 0.9848

  • 減衰率をdB値に変換:

20*Log(0.9848)= -0.133dB

同じく、3kHzでスピーカーのインピータンスは最大値になり

R2 = 18Ω

したがって、

  • 3kHzでの伝達関数:

18/(18+0.04) = 0.998

  • 減衰率をdB値に変換:

20*Log(0.998)= -0.019dB

つまり、2つの周波数での出力レベル差は 0.13dB – 0.02dB= 0.11dBという値になります。

したがって、ダンピングファクターが200の場合、周波数特性の変動は約0.1dB以内に保たれているので、A/B/X比較テストのレベルマッチングの条件を満たすことになります。これは、周波数特性のマッチングが十分に担保されており、きちんとコントロールされたA/B/Xテストでは音質の差として検出できないことを意味しています。

ダンピングファクターに対するBenchmarkの取り組み方

Benchmark AHB2のダンピングファクターが370であることは偶然の産物ではありません。8Ωのスピーカーを駆動する際に、インピーダンス由来の周波数特性の変動を0.1dB未満に保つことが私たちの目標でした。このダンピングファクター370という数値では、駆動が難しい例である当社の評価用スピーカーを使用した時の周波数特性の正味の変動量がわずか0.061dBであり、検知不能という0.1dBの基準を容易に満たしています。

ただし、これはスピーカーケーブルの抵抗値を無視した場合です。スピーカーケーブルなしでは実用的なシステムは存在しえません。1ペアのスピーカーを1台のステレオアンプで駆動する場合は特にそれが重要です。そこで、10フィート(3m)のスピーカーケーブルを使用する場合を想定しましょう。

Benchmarkは、10フィートで総抵抗値0.0252Ωの11-AWGスピーカーケーブルを販売しています。このケーブルをAHB2アンプに接続した場合、実効ダンピングファクターは以下のように計算することができます。

  • アンプの出力抵抗値 = 8/370 = 0.0216Ω
  • スピーカーケーブルの抵抗値 = 0.0252Ω
  • 駆動系全体の総抵抗値 = 0.0216 + 0.0252 = 0.0468Ω
  • 実効ダンピングファクター = 8/0.0468 = 171

システム全体の実効ダンピングファクターが171の場合、周波数特性の変動は約0.13dBになり、検知不能である0.1dBの基準にまだ十分に近い値です。システム全体のダンピングファクターを200に近づけるには、アンプのダンピングファクターを200よりも大幅に高くする必要があることに注意してください。このシステム構成では、駆動系全体のインピーダンスに及ぼすスピーカーケーブルとアンプの影響はほぼ等しくなっています。

ダンピングファクターを上げることで、アンプのインピーダンスをケーブルのインピーダンスより低くするというモデルは、収穫逓減(大きなエネルギーを注いでも得られる利が小さい)の類です。アンプのダンピングファクターが無限大とすると、ケーブル端(スピーカーの入力端子)でのシステム周波数特性は0.06dB改善されますが、これは改善量としては大きな値とは言えません。ダンピングファクター370は収穫逓減のしきい値を十分に超えているので、これ以上大きなダンピングファクターにしても改善量はほとんど増えません。

その他の考察

上記の分析は、アンプ・スピーカー間のインターフェースの振幅特性に焦点を当てています。計算を極力単純化するためにこの方法を取りましたが、ダンピングファクター10では振幅特性に聴き取ることのできる悪影響が出るはず、ということを論証することができました。

アンプの出力インピーダンスは、インダクタンスまたはキャパシタンスによる負荷がかかると位相シフトを引き起こします。図1の点線カーブは、正負の位相角を表しています。この位相角は、アンプのインピーダンスが特性に影響を与える周波数で極端に変動します。この位相変動によって発生する検知可能な音質劣化を定量化することはより難しい課題ですが、ダンピングファクターが非常に低い場合でのみ発生する問題です。

スピーカーユニットのクロスオーバー周波数の周辺で位相角が急劇に変化することは、しばしば起こる現象です。図1では、3kHzのクロスオーバー周波数の前後で位相角が正から負に変化することがわかります。

スピーカーによっては、ダンピングファクターが極端に低い場合、駆動系全体のインピーダンスによってクロスオーバー周波数の付近で検知可能な音質劣化を引き起こす場合があります。

ダンピングファクターが100を超えると、悪影響は最小限に抑えられますが、ダンピングファクターが10の場合、位相特性の変動により、検知可能な音質差がさらに大きくなる可能性があります。

結論

10くらいの低ダンピングファクターでもスピーカーユニットの減衰は可能です。ダンピングファクターが10を超えても、ユニットの減衰にほとんど影響しないことは、Dick Pierceらによって論証されています。

ダンピングファクターが10の場合、振幅特性に2dBを超える変化が発生する可能性があります。この変化量は、スピーカーから出る音に音質変化を検知するのに十分な値です。

ダンピングファクターが100の場合、振幅特性に約0.2dBの変化が発生する可能性があります。この変化量は、1ペアのスピーカーとスイッチボックスを使用して、2台のアンプを比較するA/B/Xテストでは音質変化を検知するのに十分な値ですが、通常のリスニング中にスピーカーから出る音に目立った音質変化を感じない場合もあります。システム全体としてのダンピングファクター100というのが音質変化を聴き取れる境界であると当社は主張することができます。

ダンピングファクターが200の場合、振幅特性にわずか約0.1dB変化が発生する可能性があります。これらの変化量は非常に小さく、高ダンピングファクターを持つ2台のアンプを比較するA/B/Xテストでも、音質変化を検知することはできないはずです。さらに、システム全体のダンピングファクターが200以上の場合、検知可能な変化は発生しません。

この時、一般的な12-AWGスピーカーケーブルを10フィート(3m)使用すると、システム全体のダンピングファクターは200未満になってしまいます。Benchmarkの11-AWGケーブルを10フィート使用すれば、システム全体のダンピングファクターは317未満になります。

このスピーカーケーブルの抵抗値のため、システム全体のダンピングファクターを200以上にすることは、多くの場合実用的とは言えません。システム全体のダンピングファクターが150を超えていれば、周波数特性の変化は深刻なものではありません。

システム全体のダンピングファクターのターゲットを150以上にすることを推奨します。この数値は達成可能であり、かつ優れた性能を実現することができます。スピーカーケーブルの末端でこの値を実現するには、アンプのダンピングファクターが少なくとも300あることが必要になります。

ダンピングファクターが370のBenchmark AHB2パワーアンプで駆動する際に、10フィートのBenchmark 11AWGケーブルの末端でシステム全体でダンピングファクター171となります。

11AWGまたは12AWGケーブルを使用する場合、アンプのダンピングファクターが約150ならシステム全体のダンピングファクターは100になります。同様に、アンプのダンピングファクター約300ならシステム全体のダンピングファクターは150になります。

つまり、ダンピングファクターが300未満のアンプは、再生システム全体の周波数特性に検知可能な音質変化を与える可能性があります。

周波数特性を確認するためのダンピングファクター計算表

アンプの出力インピーダンスとスピーカーケーブルのインピーダンスによって引き起こされる周波数特性の変化量を計算するスプレッドシートを作成しました。以下の画像は、このアプリケーションノートで解説したシステム例での計算結果を示したものです。

スプレッドシートを開き、以下の手順にしたがって、オレンジ色のセルにシステム・パラメータを入力します。

  1. スピーカーの公称インピーダンスを入力
  2. スピーカーの最小インピーダンスを入力
  3. スピーカーの最大インピーダンスを入力
  4. スピーカーケーブルの長さを入力
  5. スピーカーケーブルのゲージ数(AWG)を入力

「Total Error」(総変化量)には、駆動系全体のソースインピーダンスとスピーカーによる負荷インピーダンスの間の相互作用で発生する周波数特性の変化量が表示されます。この列は、周波数特性の変化量から予想される音質変化が検知可能か否かで色分けされます。赤は検知できる可能性が高いことを示し、緑は可聴の可能性が低いことを示しています。

出力されたシートの一番左の列で、8Ω負荷時のアンプのダンピングファクターに対応する行を見つけます。使用するスピーカーの公称インピーダンスが8Ωでない場合でも、アンプのスペック表の8Ω時のダンピングファクター値を使用してください。スプレッドシートが適切な調整を自動計算で行います。

「実効ダンピングファクター」の列は、ケーブルのスピーカー側の末端でのダンピングファクターを示しています。この数値も、スピーカーの公称インピーダンスに合わせて自動計算されています。スピーカーケーブルによって実効ダンピングファクターが下がることに注目してください。

ケーブルの影響を無視する場合は、ケーブル長の入力を0にします。

上の表で強調表示されている行(ダンピングファクター370)は、Benchmark AHB2のパフォーマンスに対応しています。

このスプレッドシートは完全にロック解除されており、マクロも含まれていません。スプレッドシートを変更したり、数式を調べたりする場合(例で説明されていますが)を除いて、オレンジ色のセルの外にエントリを作成することは避けてください。この計算表がお役に立てば幸いです。

John Siau

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註:ある読者から、Dick Pierceの記事より約27年前に報告されたダンピングファクターに関する論文のリンクを提供していただきました。

Augspurger, George L. (Jan 1967). “The Damping Factor Debate”(PDF). Electronics World. Ziff-Davis Publishing Company.

  • 改訂:2020年6月8日:例2の数値エラーを修正済み。このスピーカーを使用した際のダンピングファクター100での周波数特性の変化量は0.5dBではなく0.22dBです。